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メタボロミクスの目的は、生体内の小さな分子の「包括的な」分析を実行することです。 電子イオン化質量分析計と組み合わせたガスクロマトグラフィー(GC/MS)およびエレクトロスプレーイオン化(ESI-)タンデム質量分析計と組み合わせた液体クロマトグラフィー(LC/MS/MS)は、ノンターゲットメタボロミクスに適したツールです。 現在、標準物質のEI-MSおよびMS/MSデータが限定されていることがネックとなり、GC/MSおよびLC/MS/MSベースのノンターゲット解析の主な問題は、化合物の同定となっています。
MS-FINDERは、EI-MS(GC/MS)およびMS/MSのスペクトルマイニングをサポートする化合物のアノテーションを行うユニバーサルなプログラムとして開発されました。 まず、MS-FINDERは、1)組成式の予測、2)フラグメントのアノテーション、3)未知のスペクトルを用いた構造解明行うことを目的としています。 さらに、このプログラムでは、MassBank、LipidBlast、GNPSなどのスペクトルの公開データベースを使用して、未知のスペクトルにアノテーションを付けることができます。 MS-FINDERは、JST/NSF SICORPの「低炭素社会のためのメタボロミクス」プロジェクトからサポートを受け、有田正規教授(理化学研究所)とOliver Fiehn教授(UC Davis)の共同研究として開発されました。
MS-FINDER スクリーンショット
セクション1: ソフトウェアの使用環境
セクション2: 必要なプログラム
セクション3: ASCIIフォーマットの条件
セクション3-1: MSPフォーマット:MS/MS
セクション3-2: MSPフォーマット:EI-MS
セクション3-3: MATフォーマット
セクション3-4: アダクトイオンのフォーマット: [M+Na]+, [M+2H]2+, [M-2H2O+H]+, [2M+FA-H]-, etc.
セクション3-5: ユーザーの用意するデータベースのフォーマット
セクション3-6: 組成式の元素数を決定するのに必要なフィールド
セクション4: クエリ―のインポート
セクション4-1: MSPまたはMAT形式のファイルを含むフォルダからのインポート
セクション4-2: MS-FINDERプログラムのグラフィカルユーザーインターフェイスからのインポート
セクション4-3: MS-DIALプログラムからのインポート
セクション5: パラメーターの設定
セクション5-1: Method tab
セクション5-2: Mass spectrumタブ
セクション5-3: Formula finderタブ
セクション5-4: Structure finderタブ
セクション5-5: Data sourceタブ
セクション6: in silicoフラグメンターによる化合物のアノテーション
セクション7: スペクトルデータベースの検索に基づく化合物のアノテーション
セクション8: FSEA (fragment set enrichment analysis)
セクション9: 化合物のアノテーション(バッチ解析)
セクション10: Peak assignment (single)
セクション11: Peak assignment(バッチ解析)
セクション12: Molecular spectrum networking
セクション13: マウスの機能
セクション14: 出力
セクション15: ヘルプ
MS-FINDER
ダウンロードのリンク: http://prime.psc.riken.jp/Metabolomics_Software/MS-FINDER/index.html
MS-FINDERは、Windows PCのローカルソフトウェアプログラムとして使用できます。このプログラムは、MSP(EI-MSおよびMS/MS)または改良されたMSP(MSおよびMS/MS、ファイル拡張子はMATでなければなりません)を含むASCII形式のファイルをインポートできます。さらにユーザーは、MS-FINDERグラフィカルユーザーインターフェイスでクエリを直接作成できます。さらに、このプログラムは、MS-DIALプログラムから呼び出すことができます。MS-DIALは以下のサイトからダウンロードできます: http://prime.psc.riken.jp/Metabolomics_Software/MS-DIAL/index.html。
このプログラムは、以下で説明する条件でフォーマットされた2つのファイル拡張子(MSPまたはMAP)のファイルを使用できます。 不明なクエリは、ASCIIファイルに個別に保存する必要があります。MSPまたはMAPファイルは、複数の化合物のレコードを単一のファイルとして保存することはできません。
MSPのフォーマットは,基本的には”NIST MS search”のマニュアルに従っています.
リンク: http://www.nist.gov/srd/upload/NIST1a11Ver2-0Man.pdf
必要な項目
m/z intensity pair (区切り文字として、タブ、コンマ、スペースを使用することができます)
MSPの例
必要な項目
これらの項目は、スペクトルのデータベースを検索するための最小要件です。Ei-MSデータで組成式の予測と、構造の解明を実行するためには、”PRECURSORMZ:”と”PRECURSORTYPE:”が必要です。
MAT形式は、MS-FIDNERプログラムでMSPの改良版として定義され、MS1とMS/MSの両方のスペクトルを同じファイルに保存することができます。組成式予測のための”isotopic ion score”を計算するには、MSデータのサーベイスキャンが必要です。重要なのは、EI-MSスペクトルの場合、同位体比とフラグメントイオンの類似性を計算するために、MS1とMS2の両方の項目にスペクトルを置くことです。
必要な項目
✓ MSTYPE、Num Peaks、 m/z intensity pairの3つの項目は、連番で保存して下さい。
✓ “MSTYPE:MS1”と入力すると、次の項目から書き込まれたスペクトルはサーベイスキャンMS(MS1)として認識されます。”MSTYPE:MS2”と入力すると、次に書き込まれるスペクトルはMS/MSスペクトルとして認識されます。
✓ MS-FINDERでは、EI-MSスペクトルはMS1とMS2の両方について保存する必要があります。
✓ “MSTYPE:MS1”および”MSTYPE:MS2”は、必須ではありません。ASCIIファイルは、MS1スペクトルのみ、またはMS/MSスペクトルのみのレコードとしてインポートできます。
✓ スペクトルのレコードなしでも、MATまたはMSPファイルを準備できます。この場合、組成式の予測は、質量確度とデータベースをもとにして実行されます。
✓ 既知の構造でMS/MSピークのアノテーションを実行する場合は、”FORMULA”と”SMILES”も含めて下さい。ただし、ニュートライズされた組成式の”FORMULA”と”SMILES”を準備してください。
MAT example
MS-FINDERは、ユーザーが提供するデータベースを用いた解析をサポートしています。下図のような形式のファイルを、タブ区切りテキストファイルとして準備する必要があります。”InChIKey”、”short InChIKey”、および”database ID”の項目は必須ではありませんが、ダミーの値を入力しておく必要があります。正しく”InChIKey”を設定すると、データベースからのスコアリングが組成式のランキングにも使用されます。”exact mass”、”formula”、および”SMILES”は、正確に準備する必要があります。
MS-FINDERは、組成式予測のフィルタリングのための項目を新たに設けました。たとえば、完全にラベル付けされた安定同位体実験を実行できる場合、CHNOSの5つの元素の数は、ラベル付けされていないサンプルデータとラベル付けされたサンプルデータ間の質量の違いをチェックすることによって決定できます。下図で説明している項目は、MSPおよびMATファイルに書き込むことができます。
未知のクエリーをインポートする方法は3つあります。
必須項目
LC/MS/MSのデータ処理用ソフトウェアであるMS-DIALプログラムから、MS-FINDERプログラムを直接呼び出すことができます。MS-DIALでMS-FINDERプログラムを初めて呼び出すときは、MS-FINDERのファイルパスを選択してください。
MS-FINDERでの化合物のアノテーションには、2つのオプションがあります。1つはスペクトルのデータベースに基づくもので、もう1つはin silicoフラグメンターを使用した組成式および構造検索プログラムに基づくものです。”spectral database search”と”formula prediction and structure elucidation by in silico fragmenter”オプションの両方を同時にチェックでき、”spectral database search”の結果が構造のランキングに優先されます。
“internal experimental library”は、NIST MSP形式としてResourcesフォルダーの”EIMS-DBs-vs*.egm”および”MSMS-DBs-vs*.etm”に保存されています。もし、 “Formula finder > TMS-MeOX derivative compound”をオンにすると、EIMSデータベースが使用されます。それ以外の場合は、MSMSデータベースが使用されます。”in silico spectra for lipids (LipidBlast)”は、Resourcesフォルダの”MSDIAL-LipidDBs-vs*.lbm”に保存されています。未知のクエリーを検索するための適切な溶媒条件を選択します。 ユーザー定義のスペクトルデータベースは、NIST MSPのフォーマットである必要があります。
“Precursor oriented spectral search”がチェックされいてる場合は、 組成式の候補は、MS1許容値とスペクトルの前駆体 m/z によって絞り込まれます。 それ以外の場合は、すべてのスペクトルレコードが候補となります。 EIスペクトルデータベースで検索する場合は、このオプションをオフにします。
Mass tolerance (MS1): 組成式の候補を絞り込むための質量許容値
Mass tolerance (MS/MS): クエリーとリファレンスのスペクトルをマッチングさせるための質量の許容値
Relative abundance cut off: ベースとなるピークイオンに基づくこのパラメーターよりも大きいプロダクトイオンが,マッチングに使用されます。
* EI-MSスペクトルの場合、MS1とMS2には同じ許容値を設定して下さい。
Formula calculation setting: 組成式の計算に必要なパラメーターを設定できます
LEWIS and SENIOR check: 組成式を構成する元素の原子価規則に一致する候補式を生成します。ヘテロ原子の原子価、つまりN、O、S、およびPは、現在それぞれ3、2、6、および5に設定されています。
Isotopic ratio tolerance: 同位体スコアを計算します。MS-FINDERの論文で説明されているように、許容値はガウススコアリングのシグマ値として利用されます。
Element ratio check: MS-FINDERの論文で説明されているように、すべての元素比(例:”Common range (99.7%)”制限の場合、H/C比は0〜3.33の範囲になります)を満たす組成式の候補を生成します。
Element probability check: “Seven Golden Rules”を提唱した論文で説明されているヒューリスティックルールを満たす組成式の候補を生成します。たとえば、組成式の候補に”NOPS all > 1”が含まれている場合、N、O、P、Sの元素数はそれぞれ9、19、3、2未満となるはずです。
Element selection: to generate formula candidates that just contain the elements selected by the users. Check ‘TMS-MEOX derivative compound’ if you want to annotate EI-MS spectra.
Result cut off: MS-FINDERプログラムによってランク付けされた組成式のうち、出力する候補数の上限を設定して下さい。
“in silico fragmenter”のパラメーター設定は次のとおりです。
Tree depth: in silicoの開裂の場所の数を設定します。例えば”2”と設定すると、MS-FINDERプログラムはプロダクトイオンのプロダクトイオンまでフラグメントを生成します。
現在のMS-FINDERプログラムでは、EI-MSスペクトルのマイニングに”*.eif”で保存されているフラグメントイオン・ライブラリを使用することができます。(使用を推奨)
Result cut off: MS-FINDERプログラムによってランク付けされた構造のうち、出力する候補数の上限を設定して下さい。
XLogP based RT prediction and cut off setting for structure elucidation
CDKによって計算されたXLogPを使用した単純なRT予測機能を新しく加えています。下図のように、(最初の列)代謝物名、(2列目)保持時間(分)、(3列目)SMILESコードを含むタブ区切りテキスト形式ファイルを準備すると、構造候補を検索するために予測保持時間が計算されます。
Retention time setting for spectral searching
この機能はスペクトル検索用です。MSPまたはMATファイルに保持時間(RT)または保持インデックス(RI)情報が含まれている場合、このチェックボックスを使用してRTまたはRIのよるフィルタリングを実行できます。
Local databases: “*.esd”として保存されている14のメタボロームデータベースが新たにMS-FINDERプログラムで提供されています。ユーザーが選択したローカルデータベースは、構造データの取得に使用されます。ユーザー独自の構造候補の検索については、セクション3-5をご覧ください。
MINEs (Metabolic In silico Network Expansions) and PubChem online settings:
ここでは、MS-FINDERの一般的なワークフローについて説明します。(バッチ解析を以下に示します)
1. 組成式の予測は、”File navigator”のタイトル名をダブルクリックすると実行されます。組成式の計算の詳細については、我々の論文で説明しています。
* 組成式予測のポイントは、プリカーサータイプ(アダクトイオン)を正しく選択し、正しい組成式が選ばれるように正しくパラメーターを設定することです。
2. 構造検索プログラムは、組成式の結果表を右クリックし、”Search the structure”をクリックすると実行されます。
とても簡単です。アノテーションを付けたい未知のレコードをダブルクリックします。下図は、EI-MSスペクトルデータベースとLipidBlastデータベースで検索する例です。
この機能は、未知のMS/MSスペクトルの代謝物クラスを推定します。代謝物クラスへの分類は、組成式予測のプロセスの中で実行されます。したがって、組成式候補が出力されると、その結果も確認できます。FSEAの結果を確認するには(たとえば、下図で示すC20H18O10の場合)、”Molecular formula finder”の結果の行がアクティブになった後に、FSEAボタンをクリックしてください。この化合物の正しい構造はケンペロール-3-O-アラビノシドであるため、推定された代謝物クラスのうち2番目のヒット、つまりフラボノールO-グリコシドがこのクエリの正しい代謝物クラスとなります。これが、代謝物クラス推定の現在の精度です。推定されたp値の情報とともにいくつかの候補が提案されます。 p値の推定は、3つのdecoy基準によって計算できます。
代謝物クラスの推定にover-representation analysis(ORA)を使用する際の難しい問題は、MS/MSスペクトルセットの重要ではないピークを決定する方法です。現在、重要でないピークを定義する3つのオプションがあります。”Setting -> FSEA parameter setting”で設定を変更できます。”relative abundance cut off”が5%で”Low abundance ions”を選択すると、相対存在量が5%未満のイオンは重要でない*ピークとして認識されます。FSEAの結果を下図に示します。推定p値が1%未満の29の代謝物クラスが出力されています。
さらに、”reverse spectrum”を選択した場合、逆スペクトルの重要なピークはすべて重要でないピークとして定義されます。逆スペクトルは、m/z の名目上の位置を5マスシフトさせてミラーリングすることにより作成されます。 たとえば、m/z シーケンス[101.023、305.035、421.098、634.201、754.235]は[106.023、226.035、439.098、555.201、759.235]に変更されます。FSEAの結果を下図に示します。4つのクラスが1%のp値カットオフで出力されています。
3番目のオプション(デフォルト)として、FSEAセット(n = 459)で検出されないオントロジー、つまりフラグメントオントロジーの現在の知識空間によって、重要でないピークが自動的に計算されます。 FSEAの結果を下図に示します。29の候補が出力されています。
一般に、”reverse spectrum”オプションが、代謝物クラス推定の偽陽性を減らす最も保守的な方法ですが、このオプションでは偽陰性が増加します。代謝クラス推定の精度を向上させるために、近い将来にプログラムはアップデートされる予定です。
1. Analysis -> Compound annotation (batch job)
A) 組成式予測と構造解明の両方に対してバッチ解析を実行する場合は、”Both processes”にチェックを入れてください。また、組成式検索プログラムで生成される組成式候補の数を”Top N hits”テキストボックスに設定して下さい。
B) 組成式予測のバッチ解析を実行する場合は、”molecular formula finder”にチェックを入れるだけで良いです。
C) 構造検索プログラムを実行する場合は、”structure finder”にチェックを入れるだけで良いです。ここでは、ユーザーがチェックした組成式候補が調べられることになっています。また、この分析の前に組成式検索プログラムが実行されない場合、クエリはパスされます。
MS-FINDERプログラムは、ユーザー定義の構造からMS/MSスペクトルの構造を割り当てるピーク割り当てツールとして使用できます。
Analysis-> Peak assignment (batch job)
MS/MSの類似性、オントロジーの類似性、および組成式に基づいたバイオリアクションプログラムを使用した統合ネットワーク手法を実行できます。この機能を十分に使用するための要件は、
ネットワーク分析を実行するには、”Analysis -> Molecular spectrum networking”に従ってください。各クエリは、MS/MSの類似性(赤)、オントロジーの類似性(青)、および組成式指向のバイオリアクション(黄色)を使用して他のクエリとリンクされています。上位ヒットの結果は、ネットワーク分析に使用されます。cytoscape.js(ローカルブラウザで使用される)の制限により、すべてのノードとエッジがネットワークに表示されるわけではありません。すべてのノードとエッジは、”Export -> Export nodes and edges for molecular spectrum network”で、ローカルで利用可能なcytoscapeプログラムで使用できるタブ区切りファイルとして出力できます。 (http://www.cytoscape.org/cy3.html).
組成式および構造検索の結果は、このオプションから出力できます。現在、上位10の候補が自動的に出力されます。ただし、結果の詳細をASCIIファイルとして確認することもできます。これは、MS-FINDERプログラムが、プロジェクトフォルダと同じディレクトリに組成式の結果を含むFGTファイルを生成することになっていることを意味します。また、MS-FINDERプログラムは、構造検索プログラムの結果を格納するSFDファイル(組成式の候補ごとに)を含むフォルダも生成します。
MS-FINDERのバージョンを確認できます。